渋谷区を配布されているフリーマガジン「われら茶柱探検隊」。
毎回ありまさに来る珍しい職業の方をインタビューした記事を掲載させて頂いています(お客様同士のお話を、女将が立ち聞きしたテイになっております)。

前回パストラル・サウンドの園田圭吾さんのお話をここに掲載しましたら反響がありましたので
その前の号に掲載されたコント作家・ユーカリノさんの回もご紹介します。

こちらが『われら茶柱探検隊』表紙

蕎麦屋の女将さんが聞いた
「コント作家」のほんとうの話 連載第2回

お芝居や朗読の台本を書き、演出もする作家ユーカリノさんがご来店。
お皿を洗いながら耳を澄ましていると、お客様との楽しい会話が聞こえてきました。

お隣 つまりコント作家さんなんですね?
ユーカリノ いや、うー、まあなんでもいいんですけど、なんでもない作家です。演劇というには社会的メッセージとか怒りはないし、自分が見える世界というか、「こういう風に見たら面白いんじゃない?」ということを書いたらそれがコントとか喜劇に近かったという感じかな。笑いでしか物語を作れないというか。
お隣 よしもと? もっとブラックな感じ? どんな作風なんですか?
ユーカリノ 強いて言えばブラックとハートウォーミングの間。残酷なのは書けないし、甘すぎるのも嫌だし、その間を探ってます。ほっこりと言われるのは嫌いですね、よく言われるけど(笑)。ありふれた日常的な設定でも「そういう風に考えたこと無かった」とか「そうくるか!」みたいに刺さればいいなと。
だから普通の生活がネタの宝庫というか、観察が仕事みたいなところはあります。面倒なことって、ちょっと俯瞰でみると面白いんです。この人すげえ腹立つけどキャラとしては立ってるなとか、この人とこの人とでミックスして一人作っちゃえとか。普通の人って作家に書けないセリフをバンバン言いますからね~。
お隣 コントって短くていいですよね~。
ユーカリノ いやね、長いのが書けないんです、私の場合。長いとお客さんが飽きるんじゃないかと常に怯えてて。あと4.5年経ったら長いのを書けるかなあ…還暦前に長編を書いて上演できたらいいんですけどね。
お隣 還暦!? すごく長いキャリアなんですね。
ユーカリノ 私はスタートが遅くて、30過ぎて演劇というものにはじめて触れたんです。これは面白いなあと思って「演劇ぶっく」という雑誌が主催していた塾に行ったら、そこで別役実先生に褒められて…。当時は別役先生についても『マッチ売りの少女』くらいしか知りませんでしたが。そのあと劇作家協会というところがコントセミナーをやると知ったんですけど、田舎の主婦だし会場の三軒茶屋は都会だし、交通費もかかるし…と1年くらい悩んでいて、でもやっぱり気になるから行ってみたら、講師のKERAさんにまで褒められて。それでもう大勘違いですよ。ヤバいヤバい、私すごいんじゃない?!(笑)
で、41歳ではじめて舞台を作ってみたけど、書くのと芝居を作るのは全然違う。まずスタッフやキャストに私が何をやりたいのか理解してもらえない。面白さを伝えられない。自分で演出は無理だと思って演出してくれる人に片端からあたったけど、センスの会う人に出会わない。当時は「何で分かってくれないの? 面白いじゃん?」と思っていたけど、今読み返すと全然面白くない(笑)。よくこんなのを「面白いからやれ!!」と役者に言えていたなと…いやもう壮大な自己満足をやってました。
そこから10年以上経って、ここ数年でやっと私の感じを分かってくれる人達と出会って、「面白いから見て下さい!」って言えるようになって。
お隣 見てみたいです。
ユーカリノ 今のところ年一回のペースでやっているので、公演があるときはお知らせします。観劇って、ちょっときれいな格好で出掛ける傍らくらいの気軽さでいいと思っていて、フッと見たら意外に面白かったそんなのを目指してます。
お隣 …あの、コントで生活できるんですか?
ユーカリノ いやいや、普段はパン屋で働き、公演を打ちたくなると役者に集まってもらう感じです。赤字は出ないいけど黒字も出ない。「年一回のお楽しみ」とか「待ってました!」と言ってくれる人達がいるので続けてますね。普段は親の介護もあるし大変だけど、それでも言いたいことがあると集まってもらう。
あ、あと私の芝居は生演奏が入るのも売りです。ピアノとかマリンバとか。ゆったり過ごせる気持ちいい環境で、心地よい音楽を聴きつつ変な芝居を見る(笑)、そんなおもてなし。
お隣 いいですね、個性的で、やりたいことがあって。特にやりたいこともないからなあ…。やりたいことがない時はどうしたらいいですかね。
ユーカリノ 気分が良くなること、ちょっと楽しいことを淡々とやる、興味のある場所に一通り顔を出してみる。ただ何かをすることだけが偉いとも思いません、生活を愉しむのはなかなか大変なことだし。それから好きなことに「遅く出会う」のも、悪くない味わいだと思いますね。

ユーカリノ プロフィール
2016年スタートのユニット「ユーカリノート」主宰。芝居やら朗読やら。「明日はシラフで」「季節のアソート」「お話三点盛」、最近作は2019年12月上演のコント&リーディング「師走スペシャルティ」。
公式HP https://eucalynote.amebaownd.com/