渋谷区を中心に配布されているフリーマガジン「われら茶柱探検隊」に
奥沢の録音スタジオ「パストラル・サウンド」園田圭吾さんのインタビュー記事が掲載されています(女将が取材・執筆させて頂きました)。
いつもですと店内に置いておき、お時間のあるお客様にお読み頂くのですが、今回は記事をアップしますね。
この連載は実際のありまさのお客様で「珍しいな」と思う職業の方に女将がインタビューさせて頂き、カウンターでのお客様同士の会話という形に再構成したものです。
パストラル・サウンドはありまさから徒歩10分弱、CDの録音やスタジオライブが出来る知る人ぞ知る音楽スタジオです。圭吾さんはその3代目。ご自身の略歴や選曲家・レコーディングエンジニアという仕事について、今後の展望などを伺いました。
奥沢にこんな場所があるんだ! 緑が丘のポテンシャルを感じるスタジオです。
パストラル・サウンド
http://www.pastorale.co.jp/
記事の内容
蕎麦屋の女将さんが聞いた
「選曲家」のほんとうの話 連載第3回
録音スタジオを経営し、CD制作やライブを企画する園田圭吾さんがご来店。
お皿を洗いながら耳を澄ましていると、お客様との楽しい会話が聞こえてきました。
3代目だから、できること
園田 そうなんですよ、スタジオがこのすぐ近くで。
お隣 CDがどうやってできるのかなんて考えたことなかったけど、録音を専門にするお仕事があるんですね。
園田 録音のクオリティでCDの出来は随分変わります。集音マイクをどこに立てるか一つで、印象ががらっと違ったり。最近はCDを知らない人も増えてきましたけどね(笑)。でもYouTubeの時代も、力の入れ所は違いますけど、録音は必要とされています。
お隣 失礼ですけど肩書は?
園田 録音するときは「音楽エンジニア」、ダンスなど舞台の音響オペレーションをするときは「音響オペレート」、テレビ番組の選曲をしていた時は「選曲家」。何をするのか、現場やクライアントさんによって変わる感じです。
選曲は「楽しそうだね」 と言われることが多いですけど、映像を見て、ディレクターさんの演出方針を聞いて、膨大な曲の中から選曲して編集して、持って行ったら直しがあって、でも放映時間決まっているから徹夜で作業して…センスと経験、あと体力も必要な過酷な作業です。
お隣 そうか、音楽って行程の一番最後になるんですね。同じシーンでもBGMが違うと雰囲気が変わるからすごく重要だげど、先に映像がないとできない。
音響の仕事は学校で勉強するんですか?
園田 どこで習ったかというと…仕事の現場かな? 僕の場合は祖父の代からこの仕事をしていたので3代目ですが、祖父の仕事は直接見ていないし、父は家で仕事をすることはなかったので…。
専門学校などで勉強する人もいますけど、僕は高校は興味本位でロシア語学科に行って、3ヶ月ロシアで勉強したり、珍しい体験をしました。そのあと普通に日本の大学に通い始めたけど、あまりにも面白くないので以前から行くと決めていたアメリカに行くことにし、ボストンの語学学校から短大に。でもいろいろあってこの時は帰国して、それから1年間日本でアルバイトしてお金をためて、再度ニューヨークに行きました。今度は音楽の専門学校に。
お隣 すごい行動力! いよいよ本格的に勉強して?
園田 それがアメリカに行って自分のできなさを痛感したというか、渡米してすぐに演奏家としての道は諦めました(笑)。自分はブラスバンドやバンド活動をしていたし、フォークロック部では部長、ドラムではかなり出来るほうだと自負していたんですけど、海外に行ったらもう上手い人だらけ。有名なドラマーの先生の授業があるというので出てみたら、言われたことが全然できない。その時の先生の残念そうな顔が忘れられないです。プレイヤーとしては全然ダメだなと。あと近所の大学のコンサートに行ったら、学生のレベルが全然違う。こんなに上手いのか…。まさに井の中の蛙、それを思い知ったのが収穫だったとは言えます。それで専門学校を中退してニューヨーク市立大学の音楽科に入って基礎的なことから勉強しはじめたところで帰国命令。事情があって、急遽父の会社で働かなくてはいけなくなったんです。
お隣 卒業できなくて残念でした。
園田 というわけで僕の最終学歴は高卒。会社の仕事を3ヶ月でたたき込まれて、あとは現場に放り出されました。職人の多い「灰皿が飛んでくる」ような仕事場でしたけど、祖父や父の知り合いもいましたし「園田さんの息子だから」と大目にみてもらったことも多かったです。叱咤激励して育ててもらい、夢中で選曲やオペレーションの仕事をしていました。その頃はまだスタジオを持っていなかったのですが、僕が20代後半の頃、父と話して今のスタジオがある場所に引越しをしました。父が将来的には選曲だけにこだわらず、録音など音楽に関わる仕事全般出来た方がいいと。
お隣 そしてお仕事の幅も広がった。親子で働くのは大変ではないですか?
園田 いや、父がすごく頼りになるので(笑)。父がやめてからも仕事が貰えるように頑張ろうと思っています。あと僕だからできること、祖父や父はやらなかった面白いシンガーソングライターの人を探してCDを作ったり、スタジオライブをしたり、これまでの蓄積を活かした3代目だからできることを模索しています。自宅でなんでもできる時代ですけど、あのスタジオは面白いね、行ってみたいって言われるようなことをしたいですね。
園田圭吾
<レコーディングエンジニア・選曲家>
1977年生まれ、アメリカ留学を経て2006年にパストラルサウンド入社。企業VP、アニメーション効果、プラネタリウム番組選曲などの仕事を選曲家としてする傍ら、スタジオ部門ではレコーディングエンジニア・マネジメントも。