新型コロナウィルスの対応について、女将が現在考えていること(話が長くてごめんなさい)
新型コロナウィルスについて報道されはじめたとき、まず思い出したのは「赤死病の仮面」という短編小説でした。近代推理小説の開祖と呼ばれるエドガー・アラン・ポーのホラー小品です。
小学校の3年~4年の頃の私は江戸川乱歩、コナン・ドイル、モーリス・ルブランと手当たり次第に読みまくり、「ポプラ社の子ども向けはダメだ!!」と大人向けを探し始め、祖父の家にあった世界文学全集を流し読みしてミステリーをスクリーニングしていた時に出会ったのです。作品自体はとてもマイナーなのですが、「モルグ街の殺人」より短くて「黒猫」よりレアで、全集収録に当たっていろいろと都合が良い作品だったのかもしれません。
約40年前に読んだので記憶はおぼろげですが、「まちに赤死病という感染症が蔓延し、人がバタバタ死んでいる。でも権力者やお金持ちはどこ吹く風と仮面舞踏会の真っ最中。そこに赤死病の仮面をした人が入ってきて…」
今調べたら、ジャンルとしてはゴシックホラー。赤死病は架空の病ですが、ペストの別名が黒死病ですから、明らかにそれをもじっていたのでしょう。権力者やお金持ちが「下々の気持ちがかけらも分からない」様子は現在を諷刺しているのかと思うほどで、作家の洞察力には驚嘆します。同時に、人間の変わらない愚かさにもびっくりし、暗澹とします。
現在東京は外出自粛要請が出ていますが、今後は都市封鎖(ロックダウン)もありえますね。
私は今、すごく心配していることがあります。
ありまさは急行の停まらない小さな駅にある、ごく普通のまちの蕎麦屋です。吹けば飛ぶような店ではありますが、5年ちょっと営業させて頂き、いろいろな方と出会いました。
その中には認知症の方、声が出せない方、目が見えない方、脚が悪い方、がんで闘病中、うつ病、パニック障害、閉所恐怖症、若年性アルツハイマー、失業中、日本語が不自由な方、お子さんが難しい病気…カウンター越しの何気ない世間話の合間に、それぞれのご事情を伺う機会がありました。
Tさんはありまさ開店当初から足繁く通って下さいましたが、しばらくして妊娠・出産。産まれてホッとしたのもつかの間、お子さんは心臓が半分無い「無心室」だと判明。そこから何度も何度も手術し、そのたびに「命の保証はできない」と言われ、現在は「もともと心肺機能が弱いのだから、絶対コロナウィルスにかかってはいけません」と言われています。万が一感染したら対応できる病院は全国で一つしかなく、そこすら院内感染で危ない。とにかくお子さんにつきっきりで守り切るしかないのです。その終わらない緊張感たるや、想像を絶します。
若年性アルツハイマーの方は、一見すると普通の人にしか見えません。でも諸々が覚えていられない。高齢なわけでもないので、人からはよく「変な人」扱いされます。ぼんやりした不安があるそうですが、それを適切に人に伝えることはできません。
他にも認知症で自宅が分からなくなる方、長時間狭い場所にいられない方、難病はとりあえず治ったり寛解したけれど経過を観察しないといけない方…。
ご家族がいる方もいれば、いない場合もあります。家族があっても事情があって一人で暮らしていたり、失業して今の部屋に住み続けられるか分からない方もいます。
目や脚が悪い方はすぐに動けません。万が一肺炎の症状が出ても、状況を冷静に判断して行動出来ない人もいます。日本語を誤解して、間違ったことをしてしまう人もいるかもしれません。
今はそこそこ健康な大人だって軽くパニックになるような状態なのです。だから、こういった皆さんは大丈夫かな?? と思うとドキドキしてしまいます。
蕎麦屋の女将ごときが心配したところで何も変わらないのだから、他人のことより自分のこと、店の先行きでも考えろという突っ込みはごもっともです。私もそう思いますし、店の心配もしております(明日からお弁当販売したいのに、買占めがあってお米が調達できない!!)。
ですが、それと同時に思うのは、上記は当店のお客様のごく一部で、偶然お話しできたから事情が分かる方々であって、他にも困りごとを抱えていらっしゃる方はいらっしゃるはず。小さな店・ありまさの関係者でこんなに沢山「弱者」(あえてこの言葉を使いますが)がいらっしゃるのだから、実際は本当に沢山の方が、大きな不安を抱えつつもどうしていいのか分からないのでは…。ひとによっては「不安だね」と分かち合うことすらできなかったりもするのでは…。
そして彼らを安心させるべき人達は「赤死病の仮面」同様に感染が広がった今でも宴に興じており、お金が無いなら和牛商品券、それが嫌ならお魚商品券…。「パンが無いならブリオッシュを食べればいいのに」と言ったひとが思い出されます。昨日現金給付の話が出ていましたが、全員にではありません。
今日はこれから雪が降るかもしれません。そして月曜からどうなるのか…誰にも分かりません。
私自身何ができるのか考えてみましたが、自身の感染予防を心がけつつ、上記のような方々がいらっしゃるのを忘れず、小さな蕎麦屋として何ができるのか夫やスタッフとともに考えていきたいと思います。
場合によっては営業しないことが感染抑止になり、一番の社会貢献かもしれません。
一方でそれを続けていたら倒産する可能性もあり、経済的なバランスも見極める必要があります。
店が開いていることで安心して下さる方がいらっしゃるかもしれない一方で、私達が感染拡大の担い手(!)になることだって十分にありえるのです。
いろいろ考えましたが、今のところ結論は出ません(結論の無い長文に付き合わせて申し訳ない!)。刻々と変わる状況を見て、臨機応変にするしかないようです。
よくない頭を使い、無い知恵を絞って「より良い道」を探っていますが、もし私達がとんちんかんなことをしていたらどうかご指摘下さい。
そしてもしこれをお読みのあなたが、どんな形であれ困った方に手を差し伸べられるなら、ためらわずに手を伸ばして頂きたいです…。
とにかく、一日も早くこの事態が収束しますように。
皆様が心身ともに健康であられますように。
私の心配が、すべて杞憂に終わってくれますように。心から願っています。
青柳寧子