渋谷区を中心に配布されているフリーマガジン「我ら茶柱探検隊」に連載させて頂いています、
『蕎麦屋の女将さんが聞いたほんとうの話』。
ありまさのお客様に、主にお仕事についてお話を伺うシリーズです。
今回は司会・MCの有山佐和さんのお話。
普段はカウンターに置いてあるのですが、コロナ禍で共用も憚られますし、内容を紹介させて頂きます。
こんな雑誌です↓
蕎麦屋の女将さんが聞いた
「結婚式の司会」のほんとうの話 連載第6回
結婚式の司会を中心に、ラジオやテレビのMC、司会者養成に尽力される有山佐和さんがご来店。お皿を洗いながら耳を澄ましていると、お客様との楽しい会話が聞こえてきました。
「結婚式は台本のない舞台、司会は黒子にして俳優、そして演出家」
お隣 結婚式の司会にプロがいるんですか?! いや失礼、その…
有山 分かります(笑)。言葉は悪いですけど、しゃべる仕事の人が片手間でやるもの、それが結婚式の司会だと思われがちなので。私はラジオやテレビのMCもやらせて頂いていますが、何よりも結婚式の司会のプロで、同時に司会の養成にも携わっています。結婚式の司会は決して楽ではないですが本当に奥が深くて面白い仕事なので、いろいろな方に興味を持って貰いたいのですが…。ところで司会の勉強にはどれくらいの年月がかかると思われますか?
お隣 半年くらい?
有山 マイクを持ってしゃべるまでに最低1年かかります。ここがスタートラインで、そこから最低3年は頑張って欲しい。
お隣 けっこうかかりますね。
有山 デビューして3年は大変です。ウェディングは「こんな式にしたい」「演出はああやって」と個別のリクエストが多い。一生に1度だから失敗も許されない。それに文字通り台本がない。A4の用紙に「1 入場 2 開演 3 主賓挨拶…」くらいのざっくりしたものが頂けるくらいで、あとはとにかく臨機応変に進行しなくてはいけない。誰もが「無理!」 と思います。
お隣 その場で対応?! 即興すぎる…
有山 事前の打ち合わせが1時間ほどあって、そこで人間関係や肩書などを整理します。
ご家族やゲストとの楽しい思い出はもちろんですが、家族のこみいった事情、例えばご両親が実は離婚している、親戚同士が不仲など全て包み隠さず伺います。司会はそれらをすべて含んだ上で、式がつつがなく進むようにしなくてはいけません。また客席には赤ちゃんからお年寄りまでいろいろな年齢層の方がいらして、不測の事態が必ずといっていいほど起こります。おめでたい席なので楽しい空気をキープしつつ、様々なトラブルに対処しないといけません。
それから2時間半ほどの式を楽しく過ごして頂くために、緩急をつけるのも大事です。式は1本の映画であり、唯一無二のドラマ。しっかり楽しんで頂くためにも、ここは集中してもらうシリアスモード、ここはリラックスしてもらう宴会モード…など感情の波を意識した進め方をします。
お隣 表方にして裏方。思った以上にハードですね。
有山 ですから、3年後に残るのは2、3割です。でもそこを抜けると「話すってこういうことかも」という感触がつかめるようになり、5~10年経つと自分らしさを出せるようになります。司会自身が結婚したり、出産したり、また子どもが結婚する年になると話す内容も変わってきます。人柄が出る仕事ですから、長く続ければ続けるほど深まるし、やりがいがあります。
お隣 はじめから結婚式の司会志望だったんですか?
有山 私自身は大学で教育を勉強していて、当初は子どものカウンセラーになろうと思っていました。でも途中で向いていないなと思って、いったんは普通の企業に就職しました。ただやはりしゃべりたい、表現したいという気持ちがあって、少しずつしゃべる仕事をはじめて、一時期は週5は会社、土日は司会(笑)。でもこれでは続かない…と思っていたときに今の事務所から本気でしゃべる仕事をしてみませんかと言って頂いて、現在は司会、MC、そして教育に当たっています。
お隣 大学での勉強も活かされている。
有山 しゃべる仕事につきたい、という方は年代を問わず多いです。ただしゃべるといっても何をしたいのか分からない方も多くて、試行錯誤するうちに適性が見えてきます。
結婚式の司会は新郎新婦やご家族以外にも会場のスタッフとの連携などが必要で、チームプレイが得意で華やかなことが好きな人に向いています。そういうのはちょっと苦手で自分と向き合う方が性にあっているならナレーションとか朗読とか。とにかく場数を踏んで、自分が面白いと思うことを探して欲しいです。
ある結婚式の司会をしたとき…新婦は看護師、お父様は医師でした。お父様はご病気になられ、残念ながら式の前に亡くなられたのですが、ビデオメッセージを残されていた。式で上映させて頂いたら、「生きるとは? 死ぬとは? 人を大切にをするとは?」心が揺さぶられる感動的な時間になりましたが、私は困ってしまったんです。こんな素晴らしい内容をどうまとめたらいいんだろう、どうクロージングしたらいいんだろう? 結局「お父様、ありがとうございました」としか言えませんでした。後日、新婦さんがわざわざ事務所まで来て下さいました。「あの時、有山さんがなんと仰ったのか実はよく聞きとれませんでした。でも有山さんの言葉が、その響きが、私の気持ちをすっと押してくれたんです」。声は、言葉以上の何かを伝えられるのかもしれません。
有山佐和
ウエディングMCとして、ラグジュアリーホテルをはじめ多くの会場で活躍。年間100組以上の披露宴に携わると同時に、テレビ・ラジオ(Inter FM)にも出演。結婚式の感動を手紙で伝える、千葉テレビ「結婚式 心の手紙」は、現在YOU TUBE「OFUKU&S.T.チェンネル」にて配信中。
☆取材裏話☆
有山さんはありまさのお客様であると同時に私達が住む西小山のご近所さんということもあり、取材は自宅(うち)ですることに。
12月にもかかわらず窓を開けて話すという少々寒い取材になりましたが、お話は盛り上がり、聞き手の私も全然知らなかった「司会」という仕事の深さに引きこまれました。
結婚式の司会というお仕事はよく知られている割には実態が認知されていない、まさに縁の下の力持ち。新郎新婦のみならず、ご両親や参加者全員が幸せになる作戦を水面下で着々と実行している声のエージェントという感じです。
有山さんは当然ながら常に美しい声で分かりやすく話して下さったのですが、私の声のトーンにまで聞き分けて質問も深く汲み取って下さり、声のお仕事の方は耳も凄い、と思い知らされました。言葉を使うというのは恐ろしくも面白いこと、話し方ひとつでこんなに表現が広がるとは!! と感じいりました。
有山さん、貴重なお話を本当にありがとうございました。